Carbonate minerals
炭酸塩鉱物
炭酸塩鉱物で一般的なのは,方解石 (calcite)・アラレ石 (aragonite) ・ドロマイト (dolomite) の3種であり,これら3つで天然に存在する炭酸塩の大部分(おそらく99%以上)を占める.
●方解石:石灰岩の主要構成鉱物である.Ca炭酸塩鉱物としては,常温常圧条件で最も安定な相である.三方晶系 (trigonal) に属し,結晶度の良い物は,菱面体の結晶形をとる.複屈折率が非常に高い特徴を持ち,二重の透視像を示す.
 浅海成堆積物中の生物遺骸粒子やセメント中の方解石は海水中の高いMg濃度を反映して11mol% 程度のMgを含む.これをMg方解石もしくは高Mg方解石 (high-Mg calcite) と呼ぶ.逆に,Mg に乏しいカルサイトを高Mg 方解石と区別するために低Mg方解石と呼ぶこともある(両者の境界は MgCO3 = 4~5mol% 程度に設定されるのが普通である).海水から沈殿したカルサイトの Mg 含有量は水温の上昇と供に増加する傾向がある,冷水(5℃程度)から沈殿したカルサイトには 5 mol% ほどの MgCO3 しか含まれないのに対して,熱帯では(水温25〜30℃)では 最大28 mol% もの MgCO3 が含まれている.
●アラレ石:斜方晶系 (orthorhombic) のアラレ石は,大きい陽イオンの格子を持ち,方解石より比重が大きく,より高圧で安定の相である.針状の形態を呈するものが多く,結晶度の良い物は鋭い錐面を持つ.海水で生成したアラレ石に最も多く含まれる微量元素成分はストロンチウムである.アラレ石中のSr 含有量は,方解石中のMg含有量と同様に水温に正の相関を持つ.
 浅海成堆積物中でアラレ石はMg方解石とともに優勢な鉱物相である.両者を比較した場合,一般に,高緯度地域ではMgカルサイトが,中−低緯度地域ではアラレ石が卓越する.その原因を検討するために,人工海水を用いた実験を行ったBurton and Walter (1987) は,温度の増加に伴い,アラレ石の結晶成長速度が方解石の結晶成長速度を上回る事を示した.また,Lowenstam (1954) は,生物遺骸粒子の鉱物組成について,水温の増加とともにアラレ石が卓越するという傾向を見いだしている.
●ドロマイト:苦灰石もしくは白雲石と呼ばれることもある.組成はMgCa(CO3)2で,三方晶系.方解石と良く似ているが,弱酸に対する反応性が方解石よりも弱い.ドロマイトの成因・生成環境は様々であるが,生物骨格やセメントとして,現在の海水環境で生成することはなく,基本的に続成作用により生成する.ドロマイトについては,改めて第5章で詳しく扱う.
以上3つの優勢な鉱物種の他にも.天然で産する炭酸塩鉱物があり,主なものを上表に示す.
 カルシウム以外の陽イオンを含む炭酸塩鉱物は,その結晶学的類似性から方解石系(三方晶系)もしくはアラレ石グループ(斜方晶系)に分類される.Caよりイオン半径が小さい陽イオンの鉱物 (マグネサイト = MgCO3,シデライト = FeCO3,ロードクロサイト = MnCO3) は前者であり,よりイオン半径が大きい陽イオンの鉱物 (strontianite = SrCO3, witherite = BaCO3) は後者である.また,方解石やアラレ石には,微量成分として Ca 以外の陽イオンが含まれるが,Ca より小さい陽イオンは方解石に,大きい陽イオンはアラレ石に多く含まれる傾向がある.
 マグネサイトは水中のMg/Ca比が極端に高い環境で生成する.具体的には,蒸発環境でCa硫酸塩鉱物やドロマイトの沈澱により,Mg/Ca比が増加した場合や (Last, 1992),特殊な湖水環境で認められる (Canaveras et al., 1998).
 シデライトが最も出来やすい環境は有機物に富んだ還元的な汽水〜淡水の堆積物中である (Postma, 1982).この様な環境では,水中の Fe(II) 濃度が高くなり,炭酸イオンが鉄イオンと結合し,シデライトの沈澱が起る.また,土壌中の石灰質ノジュールを構成する鉱物としてシデライトが沈澱する事もある (Baker et al., 1996; 茂野ほか, 2004).
 ロードクロサイトも還元的環境下で生成しやすく,最も有名な例は,黒海の堆積物である.黒海の水は垂直的循環に乏しく,深い場所では極端な還元的条件にある.そのため,Mn(II) 濃度が高い場所ではロードクロサイトが沈澱する (Huckriede and Meischner, 1996).
 ヴァテライトは第三の無水 CaCO3 相であり,六方晶系の構造を持つ.この鉱物は極めて不安定で,カルサイトより3.7倍溶解しやすく,アラゴナイトより2.5倍溶解しやすい.天然の堆積物や生物骨格に認められることはまれである.
 含水CaCO3相の鉱物として,モノハイドロカルサイトとイカイトが挙げられる.両者とも,低温の環境で生成しやすい.北海道足寄町のシオワッカ冷泉では,これら2つの鉱物を含む炭酸塩沈澱物が生成している.ここでは,沈澱物の鉱物組成に季節変化が認められ,夏にはモノハイドロカルサイト,冬にはイカイトが沈澱する (伊藤, 1993; Ito, 1998).また,イカイトは南海トラフから採集されたコア堆積物からも報告されている (Stein and Smith, 1985).
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Authers
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