平成20年度文部科学省新学術領域研究
領域長あいさつ
浦辺徹郎 領域代表

東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻・教授

 2008年から開始した本計画も第2期に突入しました。第1期では計19回もの研究航海を総て異分野間の共同航海として実施し、かつその結果をシミュレーションや室内実験と組み合わせて検討し、領域提案時に提出した「海底下の大河仮説」を検証することに努力してきました。これまで通常の海洋科学の研究に用いられてこなかった、自航式探査機(AUV)による観測、海底設置型掘削装置(BMS)および統合国際深海掘削計画(IODP)による掘削船「ちきゅう」による海底下生物圏への直接アプローチなどの研究手法と、新たなアイデアの組み合わせにより、多くの成果が得られつつあります。

 AUVうらしまを用いた調査では、南部マリアナ海域を対象として、噴出熱水によって海水中に形成される熱水プルームや1メートルコンターの高精度地形、高解像度の海底磁気異常の高精度・高解像度マッピングに成功しました。この結果に基づき、その後の航海で新たな熱水活動が発見されました。AUVを用いた世界初の多点採水試料の分析からは、「イオウの大河」における熱水化学成分濃度とプルーム中微生物群集の間の明瞭な相関を見出しました。このことは、海底下の大河がその種類に応じて海洋環境に大きな影響を及ぼしていることを示す興味ある結果です。これらに加え、南マリアナ海域でのBMSによる熱水マウンドの掘削が行われ、掘削孔を用いた長期計測・微生物現場培養が行われています。

 中央インド洋海嶺においておこなわれた潜水艇による航海では、新たに地質学的条件の異なる2つの熱水活動を発見しました。その内、水素に富んだ熱水活動域は、断層運動に規制される新たなタイプの水素の大河であることが示され、蛇紋岩化反応に伴う水素の大河とともに、水素に依存した海底下微生物生態系及び化学合成生物共生システムが存在することが明らかになりました。室内実験では25億年以上前の原生代に、断層活動場が水素の大河であった可能性が示されています。

 「ちきゅう」により沖縄トラフの熱水域で行われた掘削によって、熱水帯水層が透水性の高い地層に沿って水平方向に数kmにわたって広く分布していることが明らかにされ、メタンの大河の「流域」の一つの姿が明らかになってきました。

 このような興味ある発見は枚挙にいとまがありませんが、第2期ではそれらを統合して、「海底下の大河」が現在地球システムにおいて果たしている役割を明らかにすると共に、初期地球生命が育まれた場として有力視されている、熱水および熱水孔下生物圏の特性と起源を探って行ければと願っています。


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