T-MORE 長塩(後半11/9-30編)2 11/14-25
T-MORE 長塩(後半11/9-30編)2 11/14-25
2011年11月30日水曜日
11月14日〜25日
14日は凍結切片法でカイメン試料の切片作りを行いました。T-More前半で行ったパラフィン切片法は切片作りに約3日かかりましたが、今回行った凍結切片法はたった1日で切片を完成することができるので驚きました。
この凍結切片法はまず、PBS溶液で直径約2mmの立方体に切ったカイメン試料を固定し、その後OCT compoundでカイメン試料を包埋した後に、液体窒素で急速に凍らせ、カイメン試料を固定します。その凍結させた試料をクリオスタットで約4μmの厚さに切り、切片を作成します。この方法はパラフィン切片法よりも簡単に切片を作成することができますが、欠点は連続切片が作れないことです。しかし、海綿動物は立体構造の観察は必要ないので、この凍結切片法は海綿の切片作りには最適であると考えられます。この日は切片作りで一日が終わってしましました。明日は今日作成した切片を用いてFISHを行います。
15日は昨日作成した切片とホールマウント(切片にしてない試料)を対象に染色の作業を行いました。今回はprobeにEUB338とGAM42を用いました。このプローブを用いることで真正細菌とγプロテオバクテリア染色されます。貴重なprobeを分けていただいた河戸さんには本当に感謝しています。また、失敗か染まっていないかの判断のために共生細菌の存在が確認されているヒラノマクラのエラも分けていただきました。ヒラノマクラのエラは本当に小さく、溶液を移し替える際に、何度も見失いそうになりましたが、なんとか染色作業が終わるまで残っていました。しかし、ヒラノマクラに気を遣いすぎて、他の海綿サンプルを見失ってしましました・・・・。なんてドジなんでしょう・・。
この日で、洗い流し(RNA以外も全部染まっているので、それを洗い流す作業)を行い一晩おく作業にまでたどりつけました。
16日は実際に蛍光顕微鏡観察です。最後にhoechstでDNAを染めたあと、まず最初にヒラノマクラのエラの観察を行いました。EUB338では綺麗に細菌が染まっており、ヒラノマクラのエラの共生細菌は細胞外共生なので細胞の形を縁取るように細菌が発色していて、感動しました。今まで、共生細菌について表面的にしか知りませんでしたが、実際に蛍光顕微鏡で細菌が共生している様子を見ることにより共生細菌がどのようにその宿主の細胞と共生しているかについて自分の目で確かめることができました。残念ながら、海綿動物のFISHはhoechst(DNAが染まる)以外では染まりませんでしたが・・・。ですが、色々と問題点も分かったので来週からまたリベンジしたいと思います。
17日 この日は午後15時から私の現在行っている研究について、そしてT-Moreでの現在の状況について発表を行いまいした。正直最初、15時5分前ぐらいになってもほとんど誰も来なかったので、本当に今日あるのだろうかと心配でわたわたしていましたが、徐々に人が増えていき、偉い研究者の方々が多く来てくださりました。発表の結果はもちろん、自分の考察の詰めの甘さや、発表の仕方の拙さが浮き彫りになりましたが、今後の私の研究の方向性についてまで本当に貴重な意見をいただき、とても有意義な時間になりました。このような機会を作ってくださった渡部さん、また貴重な時間を割いて私の発表を聞きに来てくださったみなさまには本当に感謝しています。ありがとうございました。今回の発表で私の研究について多くの方々に知ってもらえたおかげで、貴重な海綿サンプルを分けていただく機会をいただきました。本当にラッキーです。
18日 この日は少しT-More後半の前半(ややこしくてすみません)を終えて色々と学ぶことがあったので、少し考えを整理しました。今回のT-Moreで、あたり前のことですが、自分の頭で考えて、現象を判断する力が本当に大切であることを改めて知りました。このことを怠ると、間違ったことを正しいと勘違いしてしまう危険性があると分かりました。例えば、ヒラノマクラのエラを蛍光顕微鏡で観察したとき、視覚的に見て、安易にこれは真正細菌だ、細胞だと判断してしまっていましたが、自分の頭でこういう発色であるとなぜ細菌であるか、細胞であるかを理解していなければ、間違った判断をしてしまう可能性があるということが分かりました。
また、研究には辛抱強さと頭の柔軟性が大切であることが分かりました。例えば最初から、海綿動物には共生細菌が存在しているはずだと決めつけすぎて実験に臨むのはよくないことが分かりました。実験の結果から共生細菌がいなかったから、もうこの実験いいやって思うのではなく、その実験結果から、共生細菌が確認できなかったのは、どのような原因が考えられるかを考察し、きちんと真実について見極めて行く力が大切なのだと今更ですが気づくことができました。
今回のT-Moreで生物を実際に目で見て観察することの大切さ、机上の勉強では学べないことをたくさん行うことができました。残りのT-Moreでも、実際に目で見て観察することをたくさん行いたいと思います。来週は、海綿の専門家である伊勢さんがこちらに来られて一緒にFISHを行い、色々と海綿の構造について学ぶことができるのでとても楽しみです。
21日 今週から、前回の反省点を生かして再びFISHを行います。この日は、FISHを行う前に顕微鏡でひたすら海綿動物の細胞構造の観察を行いました。しかし、観察していくうちに
わけが分からなくなってきました。自分が見ている構造は本来の構造なのか、それとも、サンプリング中に構造が壊れてしまったのか・・・、固定方法や試料の新鮮さに問題があるのか・・・など色々と考えるとこんがらがってきました。やっぱり海綿動物の細胞構造を確認することは難しいのか・・・。今週の木曜日は伊勢さんが来られるので、このことについて伊勢さんに色々と質問をしたいと思います。
22日 今日はFISHに用いる凍結切片作りを行いました。今回は前回の反省点を生かして、様々なサンプルを同じスライドガラス上に置きました、この日はFISHを教えてくださる滋野さんが出張で不在なため、一人で凍結切片を作成しました。最近、航海が多いため生態棟にあまり人々がおられないので、少し寂しい感じです。この日は凍結切片作成後、机上での勉強の日となりました。
24日 この日は伊勢さんと前半のT-Moreでパラフィン切片作りを教わった大森さんに来ていただきました。そして、今までのFISHを行った海綿の顕微鏡画像を見ていただきました。その結果、ある一つの海綿試料で、バクテリオサイトが見えていることが分かりました。また、海綿の細胞構造を見る際に、観察する種の同定を行ってから観察した方がいいと指摘されました。その方が、観察する海綿の構造の特徴もわかり、観察をする際にどこに注目して観察を行うべきかが分かると言われました。海綿は種類によって、全然細胞構造の見え方が違うということがわかり、海綿の生態の複雑さを再確認しました。
その後、一緒にFISHを行いました。今回は、前回の反省点を踏まえて一つのスライドに3つの異なるサンプルを置くことで、同じ条件でFISHを行い、蛍光発色をそれぞれの海綿試料で比較できるようにしました。
そして、2時間の待ち時間があるのでその間に伊勢さんと大森さんと滋野さんと一緒に昼食をいただきました。昼食を食べながら、私のT-Moreのために多くの方々に協力していただいたり、わざわざJAMSTECに足を運んでいただいたり、と本当にありがたいなと感謝の気持ちでいっぱいになりました。T-Moreで、多くの方々と関わることができ、とても貴重な経験をさせてもらっていることを実感しながら、昼食の時間が終わりました。
その後洗い流しの作業を終え、実際に蛍光顕微鏡で成功しているか確認しました。すると、hoechst(DNAを染める)は染まっていましたが、EUB338(真正細菌を染める)が全然反応していません・・・。それどころか、前回FISHを行った同じ海綿試料のはずなのに、全然見え方が違います。私は少し混乱してしまいました。伊勢さんにも、「さっき見せてもらった海綿と全然違うけど、本当に同じ試料?」と言われました。また、ポジティブコントロールとして用いたヒラノマクラのエラも、EUB338の反応が見られません・・。
ハテナマークが頭の中にいっぱいになって今回のFISHが終わりました。私は、自分が試料を間違えたかもしれないということと、FISHを失敗してしまったということで落ち込んでしましました。
25日 この日は、FISHに詳しい河戸さんに、昨日のFISHについて話ました。そしたら、私の見方に問題があるかもしれないということと、きっちり封入作業をやった方がいいと指摘されました。封入作業の際に退光防止剤を試料の上に一滴乗せる作業があり、FISH失敗の可能性もあるけど、その作業をした方がいいと言われ、私はその作業を行い、再度河戸さんに言われたことに注意して蛍光顕微鏡で観察を行いました。すると、なんとヒラノマクラのエラでEUB338の反応が見られました。私のパソコン上での見方に問題があったようです。また、退光防止剤を切片に加えることにより、見え方が前回と異なっていた海綿試料が、前回と同じ見え方になりました!私は嬉しくなり、顕微鏡観察に没頭し過ぎるあまり、JAMSTEC21:05発の最終便のバスに乗り遅れそうになりました。今日中に細かい観察が終わらなかったので、来週頑張ろうと思います。
文・写真:長塩 皓美(岡山大学大学院自然科学研究科)
写真:上段:試料を包埋中 下段: クリオスタット