生物礁
山脈・海溝・河川・平野・砂漠などの地表に発達するほとんどの地形は,テクトニクス・浸食作用・堆積作用により生じたものである。唯一の例外はサンゴ礁であり,これは炭酸カルシウムを分泌するサンゴや石灰藻などの生物活動により発達した地形である。オーストラリア東部沿岸に発達するグレートバリアリーフは総延長は2,600kmに達し,宇宙からも確認できる最大の生物による建築物だ。これを支えているのが,年数cmにも達するサンゴの成長速度である。サンゴは,体内に藻類を共生させることで,貧栄養の環境に適応するとともに,光エネルギーを自分の体に変えている。
約5.4億年前にストロマトライトが衰退した後,生物礁 (reef) は浅海域の炭素リザーバーとして重要な働きを演じてきた。最初は古盃類と呼ばれる海綿動物が,次に層孔虫が現れ,古生代には大規模な生物礁が浅海域に広く発達した。礁を作る群集は,大量絶滅により何度か危機に瀕したが,その都度立ち直って,現在の豊かな生態系を作るまでに発展してきた。
本研究室ではこれまで,顕生代(5.4億年前以降)の様々な時代の生物礁を扱ってきた。スウェーデン・ゴトランド島のシルル紀の層孔虫礁もその1つで,バルト盾状地の上に発達した礁地形は今でも良く保存されている(左図)。また,琉球列島の第四紀のサンゴ礁についても研究を行っている (Sakai and Kano, 2001)。

層孔虫研究
ー世界的な稀少価値を伝承する
左図は2007年6月発行のGFF (Geologiska Foereningens i Stockholm Foerhandlingar) 誌の表紙である。私たちはイラン国ザグロス山脈の上部ジュラ系から新種の層孔虫を発見し,その論文が掲載されている (Kano et al., 2007)。層孔虫はオルドビス紀に出現しデボン紀には一度絶滅したと考えられているが,ジュラ紀に入り復活し,白亜紀後期まで生物礁の構築に貢献してきた。長い間,絶滅したグループだと考えられてきたが,1970年代に硬骨海綿が発見され,これが類縁のグループであるとされている。すなわち,層孔虫は2度の危機を乗り越え,現在までしぶとく生き残ってきたのである。現在の硬骨海綿は海底洞窟や水深数100mの海底に生息し,サンゴとの競争を避けているようである。層孔虫の研究者は世界でも10人に満たない。古生物学的な記載は地味な仕事ではあるが,層孔虫の古生態的な重要性から考えると,少なすぎるだろう。

深海サンゴ礁
ー国際的プロジェクトの推進
光が透過しない水深数100mの海底にサンゴ礁が発達することを,皆さんはご存じだろうか。本研究室では,2005年からの新たなテーマとして,「深海サンゴ礁」の研究に取り組んでいる。
北極圏ノルウェーからモロッコにいたる北東大西洋の水深1,500mに達する陸棚縁辺や海山上で,サンゴを含む底生生物群集が作るマウンド状の地形が1990年代から次々と見つかり,これらは「深海サンゴ礁」と呼ばれるようになった。
サンゴ礁の主役はLophelia pertusaという群体サンゴ(右)であり,これが幅数キロ,高さ350mに達する堆積体を作る。
2000年代に入ると,深海サンゴ礁研究は盛んになり,その分布が,北東大西洋のみならず,世界各地に及んでいることが次第に明らかになってきた(左)。
サンゴ礁の発達する海底では,動物プランクトンが豊富であり,懸濁物が少ない傾向がある。これらの条件は,Lopheria pertusaの生態と密接に関係し,ノルウェー沖のフィヨルド地域では,海底の地形的な高まり部分がこれらの条件を満たす。しかし多くの地域では,サンゴ礁が海底面から成長していることが示され,その成立条件については謎が残されていた。
そこで,2005年春は,アイルランド沖ポーキュパイン海盆の深海サンゴ礁 (Challenger Mound) が統合国際深海掘削計画 (Integrated Ocean Drilling Program: IODP) Expedition 307の掘削対象になり,その起源や進化が堀り下げられた。
この航海には,狩野が共同主席研究員として,高島が乗船研究員として参加し,掘削作業や堆積物の記載と分析を行ない,Expedition 307の成功に貢献してきた。Challenger Moundの中心から採集された厚さ155mの堆積物はLophelia peertusaを豊富に含んでいた。研究は現在も進行中である。
Challenger Moundの年代決定には異なる方法が適用されたが,最も有効だったのはSr同位体比であった。高知コアセンターで川越・高島・柿崎らが測定したデータはマウンドが2.6Maに成長を開始したことを示した(左図)。これは,北半球での氷河活動が強化した時代と一致する (Kano et al., 2007)。

本研究室では,この掘削計画の中心的な役割を担い,「日本における深海サンゴ礁研究」を先駆けている。