約5.4億年前にストロマトライトが衰退した後,生物礁 (reef) は浅海域の炭素リザーバーとして重要な働きを演じてきた。最初は古盃類と呼ばれる海綿動物が,次に層孔虫が現れ,古生代には大規模な生物礁が浅海域に広く発達した。礁を作る群集は,大量絶滅により何度か危機に瀕したが,その都度立ち直って,現在の豊かな生態系を作るまでに発展してきた。
本研究室ではこれまで,顕生代(5.4億年前以降)の様々な時代の生物礁を扱ってきた。スウェーデン・ゴトランド島のシルル紀の層孔虫礁もその1つで,バルト盾状地の上に発達した礁地形は今でも良く保存されている(左図)。また,琉球列島の第四紀のサンゴ礁についても研究を行っている (Sakai and Kano, 2001)。
層孔虫研究
ー世界的な稀少価値を伝承する
左図は2007年6月発行のGFF (Geologiska Foereningens i Stockholm Foerhandlingar) 誌の表紙である。私たちはイラン国ザグロス山脈の上部ジュラ系から新種の層孔虫を発見し,その論文が掲載されている (Kano et al., 2007)。層孔虫はオルドビス紀に出現しデボン紀には一度絶滅したと考えられているが,ジュラ紀に入り復活し,白亜紀後期まで生物礁の構築に貢献してきた。長い間,絶滅したグループだと考えられてきたが,1970年代に硬骨海綿が発見され,これが類縁のグループであるとされている。すなわち,層孔虫は2度の危機を乗り越え,現在までしぶとく生き残ってきたのである。現在の硬骨海綿は海底洞窟や水深数100mの海底に生息し,サンゴとの競争を避けているようである。層孔虫の研究者は世界でも10人に満たない。古生物学的な記載は地味な仕事ではあるが,層孔虫の古生態的な重要性から考えると,少なすぎるだろう。