「GBSセミナー」カテゴリーアーカイブ

2025年度第2回GBSセミナー(2025/5/19 17:30)

日時:2025年5月19日(月) 17:30~18:30(発表45分,質疑15分)

講演者:南舘 健太(助教)

場所:理学部1号館105号室

演題:「古台風学:堆積物から台風を探る」

要旨:
台風やハリケーン等の熱帯低気圧は,沿岸の地形を大規模に改変し,人類社会を含む生態系に大きな影響を及ぼす気象擾乱である.人為起源の地球温暖化が,熱帯低気圧の発生パターンや経路を変えることが危惧されている.しかしながら,数十年程度の短い衛星観測記録からのみでは,百年スケールの長期的な変動を捉えることができない.地質記録を利用して過去の熱帯低気圧活動について調査する学問は”Paleotempestology”と呼ばれ,近年注目を集めている.対応する日本語の学術用語は定まっていないが,これを訳すれば”古台風学”と言えよう.本発表では,草創期にある古台風学に関して用いられる代理指標や課題をレビューする.また,発表者が進めている奄美大島(琉球列島)と南島(小笠原諸島)の堆積物を利用した古台風復元に関する研究事例を紹介する.

2025年度第一回GBSセミナー(2025/4/7)

日時:2025年4月7(月) 17:30~18:30(発表45分,質疑15分)

講演者:Buz Barstow (Associate Professor, Biological and Environmental Engineering Atkinson Center for Sustainability Senior Faculty Fellow, and Carl Sagan Institute Fellow, Cornell University)

演題:The Microbe-Mineral Atlas and Biomining for Metals for the Sustainable Energy Infrastructure

要旨:

Climate change is one of the biggest challenges of our lifetimes. But, it can’t be addressed by energy austerity: meeting human aspiration for a better life is a must. Global society needs to build a new carbon-neutral sustainable energy infrastructure, but this will come with an enormous new demand for metals. However, traditional technologies for metal extraction from ores and their separation pose extreme environmental impact given the extraordinary demand needed. 

Biomining (using microorganisms to dissolve minerals, separate, and concentrate metals) has the potential to provide selective and efficient access to metals from low-grade, globally distributed geologic and waste materials. Biomining is a growing reality: today it supplies 5 to 15% of the world’s gold and copper supplies from low grade ores. But, there are no industrially-useful microbes for either biomining most energy-critical metals. This means they will need to be built using synthetic biology with lessons from the natural world. 

In this talk, I will describe work by my own lab to build genetically engineered microbes for biomining rare earth elements, for accelerated weathering and CO2 sequestration, and the new Microbe-Mineral Atlas Center.

2024年度第六回GBSセミナー(2024/11/25@理学部1号館105)

日時:2024年11月25日(月) 17:30~18:30(発表45分,質疑15分)

講演者:對比地孝亘 准教授

場所:理学部1号館105号室

演題:アルゼンチン・パタゴニアでの古生物学野外調査のこれまでとこれから

要旨:
2020年と2023年にアルゼンチン国立自然科学博物館と 国立科学博物館で行った上部白亜系Chorrillo層の共同野外調査では、メガラプトル類獣脚類や単孔類哺乳類の新種の発見や、古植物相の解明などを通して、白亜紀末のゴンドワナ大陸における陸上生態系や古生物地理に関する新知見を得ることができた。本発表ではこれらの研究成果を報告するとともに、来年度に予定されている中部三畳系陸生層の調査についての学術的背景と計画を紹介する。

 2024年度第五回GBSセミナー(2024/10/28@理学部1号館105)

日時:2024年10月28日(月) 17:30~18:30(発表45分,質疑15分)

講演者:奥村大河 助教

場所:理学部1号館105号室

演題:vateriteの結晶(?)構造解析

要旨:
vateriteは無水の炭酸カルシウム結晶の多形の一つであり、1894年にドイツのHeinrich Vaterによって初めて合成されました。溶解度が高いため地球表層環境ではあまり産出しませんが、炭酸カルシウム過飽和溶液から容易に合成が可能です。また、魚の耳石やホヤの骨片など、生物が作る一部の硬組織には安定して存在することが知られています。その結晶構造は1世紀以上にわたり議論されてきたが、いまだに明確な結論が得られていません。本発表ではvateriteの構造に関する最新の研究成果を紹介し、「結晶とは何か?」について改めて考察します。また、最近の電子顕微鏡技術の進展を紹介し、今後の展望も述べます。

2024年度第四回GBSセミナー(2024/9/30 8:30@理学部一号館710)

2024年9月30日(月)
・場所:理学部1号館710号室 (オンラインとのハイブリッド)

・プログラム
8:30~9:00 海田 比呂子「地質調査・歴史記録・数値計算に基づく八丈島の古津波履歴の検討」
9:00~9:30 笠井 克己「巨大津波がマングローブ林形成史に及ぼす影響の評価」
9:30~10:00 Siu Ting Chi Sienna「Temperature- and pH-dependent microstructural phenotypes in the Pinctada nacre」
10:00~10:30 竹内 大晟「ニホンウナギ水晶体の安定同位体分析による天然・養殖個体判別」
10:45~11:15 田中 祥太「SE-Dome IIアイスコア及び皇居外濠堆積物が示す19世紀以降の大気中の亜鉛の化学記録分析」
11:15~11:45 谷口 風雅「深部花崗岩中における微生物の増殖を促進する環境因子の特定」
11:45~12:15 古屋 俊和「前処理が硬骨魚類の歯の炭酸基の同位体組成に及ぼす影響」 

2024年度第三回part2GBSセミナー(2024/6/24 8:40@オンライン)

博士論文中間発表会
2024年6月24日(月)
・オンライン開催

・プログラム
8:40-9:20  吉田晶「地下深部堆積岩を用いた微生物検出」
9:20-9:50 三木志緒乃「長寿二枚貝ビノスガイの貝殻成長線解析と酸素同位体比分析による高時間解像度気候復元」
9:50-10:20 石崎美乃「ポスト古生代ディスキナ科腕足動物の形態進化:生態的革新に対する洞察」

― 10分休憩 ―
10:30-11:00 服部竜士「化石硬組織のSr同位体比分析による絶滅大型捕食動物の移動生態復元」
11:00-11:30 廣田主樹「貝殻基質タンパク質(SMPs)の分子進化に関する研究」
11:30-12:00 吉村太郎「微細構造からマクロ進化へ:多様化した貝殻の進化経路をたどる」
12:00-12:30 渡辺拓巳「脊椎動物における中耳構造の収斂進化に関する進化発生学的および古生物学的研究」

(D2は発表20分・質疑10分,D3以上は発表30分・質疑10分)

2024年度第三回GBSセミナー(2024/6/17 9:00@理学部一号館101)

博士論文中間発表会
2024年6月17日(月)
・場所:理学部1号館101号室

・プログラム
9:00-9:40  朝倉侑也「脊椎動物の頭骨における可動性の進化と発生」
9:40-10:20 宇野友里花「進化発生学的および古生物学的解析に基づく獣脚類の前肢筋の進化」
― 10分休憩 ―
10:30-11:10 河合敬宏「放射光X線を用いたリュウグウ母天体の水環境復元」
11:10-11:50 菊地柾斗「有羊膜類における生殖モード移行に関連した腰尾骨格進化」
― 昼休み ―
13:10-13:50 小長谷莉未「ルビジウム安定同位体: 表層環境復元や物質循環解析の新規地球化学ツールとしての可能性」
13:50-14:30 西村大樹「糸魚川-静岡構造線上に位置する諏訪盆地の地下微生物群集と、その代謝活動を制約する環境要因の解明」
14:30-15:10 村田彬「トゥファと石筍を用いた太平洋北西岸における陸域古気候復元」
― 10分休憩 ―
15:20-16:00 森悠一郎「含水SiO2の高圧下弾性波速度測定とその地球科学的インプリケーション」
16:00-16:40 吉澤和子「魚竜型類の腰部・尾部軟組織復元とバイオメカニクス解析に基づく水棲適応史の研究」

(D2は発表20分・質疑10分,D3以上は発表30分・質疑10分)

2024年度第二回GBSセミナー(2024/5/20 17:30@理学部一号館105)

日時:2024年5月20日(月) 17:30~18:30(発表45分,質疑15分)

講演者:鈴木庸平 准教授

場所:理学部1号館105号室

演題:世界最大のマグマ溜まりを掘り抜け!  ブッシュフェルト複合岩体の大深度掘削による20億年前の原始生命探査

要旨:
原始生命探査は生命の起源を生物進化から制約する目的で、深海底熱水噴出孔や陸上温泉などの生命誕生の候補場で盛んに行われており、上部マントル物質として知られる超塩基性岩と水の反応場が第3の候補として近年注目される。火星の地球外生命探査において、形成年代が30億年より古い超塩基性岩の内部から現存生命や生命の痕跡を検出することを目的にサンプルリターンが計画されている。地球上の超塩基性岩を対象にした原始生命探査は、形成年代が300万年前と若い大西洋中央海嶺付近のロストシティーや形成年代が1億年前のオマーンオフィオライトで掘削調査が行われているが、形成年代が数十億年超えの岩体については掘削による微生物研究の事例がない。

20億年前に形成した地球上最大のマグマ溜りである、南アフリカのブッシュフェルト複合岩体が国際陸上科学掘削計画(ICDP)により掘削される。この巨大なマグマ溜りは、地殻に貫入したマントルであり、マグマ溜りを下位に行くほどマントルと組成が類似した超塩基性岩になる。ブッシュフェルト複合岩体は形成後の20億年間、変形や変成作用ほとんど被っておらず、マグマの冷却後から現在まで安定した地下微生物の生息場と考えられる。ブッシュフェルト複合岩体の下部には、世界最大の白金族元素の埋蔵量を誇るクロミウムに富む層が、上方からの地下水の侵入を阻み、最下部の超塩基性岩体には古原生代の熱水循環後に侵入した微生物が現在までその子孫を残していると期待される。最新のゲノム研究で、1億年程度は地下微生物が進化しないことが証明されており、本研究では20億年前に生息した地下微生物が同様に進化せずに存続しているか明らかにする。進化せずに存続している場合は、20億年前の生物を化石でなく直接調べることが可能になり、最終普遍共通祖先や初期生命進化の情報が新たに得られると期待される。

2024年度第一回GBSセミナー(2024/4/22 17:30@理学部一号館710)

日時:2024年4月22日(月) 17:30~18:30(発表45分,質疑15分)

講演者:栗栖美菜子 講師

場所:理学部1号館710号室

演題:大気・海洋の鉄循環に関する研究の紹介

要旨:
私の主たる興味は、大気・海洋・固体地球の境界を移行する微量金属の挙動や、それに伴う生元素循環の変化、さらに、人間活動が物質循環に及ぼす影響などにある。これまで、大気と海洋表層における微量金属元素、特に鉄の循環に興味をもち、微量金属元素の濃度や安定同位体比、化学種などを用いて研究を進めてきた。鉄は微量必須栄養塩であり、高栄養塩・低クロロフィル海域などにおいて鉄の不足が生物生産を制限している。しかし、生物が利用しやすい形態の鉄がどこから、どのように、どの程度供給されているのかについては未だに定量的な理解に至っていない。本発表ではこれまでに陸上や海上での観測から見えてきた大気海洋間の鉄の循環について紹介するとともに、これから大気海洋研究所で進めていきたい研究についても話をさせていただく。

2023年度第五回GBSセミナー(2023/10/23 17:30@理学部一号館105)

日時:2023年10月23日(月) 17:30~18:30(発表45分,質疑15分)

講演者:板井啓明 准教授

場所:理学部1号館105号室

演題:「普遍と普通」地球化学・陸水化学の温故知新

要旨:
 東大赴任後に学生から受けた言葉で印象深いのは「特殊より普通を知りたいのです」の一言である。彼には、化学的原理を抽出するために特定元素に着目して研究を進める手法が「特殊」に映ったのかもしれない。彼の言う「普通」が、自然の状態をある目的に沿って計測したときの統計的中心を指すのであれば、現象の機構レベルの理解によりそれを十分な精度で予測可能にすることが理学的研究の目標であろう。また、統計的中心を知りたければ、組織化された観測網により蓄積されたデータを活用することが、今日では可能であろう。にも拘わらず、私自身は、横断的実地調査とその分析を経験して得られる暗黙知の重要性を直感している。発表の前半では、21世紀に比較湖沼学的研究を東大で進めることの啓蒙的意義を、類似研究が隆盛であった時代から学ぶことを目的に、菅原健博士、吉村信吉博士、半谷高久博士らの研究史を追う。
 発表の後半では、先人の研究史をふまえて、私が着手した研究について述べる。初めに、湖沼の物質代謝を考える上で主要な成分として、溶存酸素・リン・ケイ素に着目した研究例を示す。次に、国内陸水でデータの少なかった微量元素挙動の理解のため、東日本に分布する14湖沼の元素鉛直プロファイルの系統的分類や、26本の一級河川の計測結果について紹介する。さらに、21世紀型の計測項目として、環境DNAデータの比較湖沼学的解析から得られる知見について紹介する。最後に、生物間の被食-捕食関係を通じた物質移行の定量的解析を、炭素・窒素・リン以外の元素に拡張させる「生態系地球化学」の展望について説明する。